2009/03/07

[書評]「命令違反」が組織を伸ばす

「命令違反」が組織を伸ばす (光文社新書)「命令違反」が組織を伸ばす (光文社新書)
菊澤 研宗

光文社 2007-08
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太平洋戦争下の日本軍がおこした行動は一見非合理的であると考えられるが、筆者はそうした一連の非合理的行動を、限定合理的人間の行動による合理的行動と捉える。

<タイプ1>の不条理
 正当性と効率性の不一致が生み出す不条理
<タイプ2>の不条理
 私的個別性と社会性の不一致が生み出す不条理

を区別して、それぞれの不条理に対してどのように組織は対処していくべきなのかを述べていく。

<タイプ1>の不条理を簡単に説明すると、ある事象の評価は個人の主観的な価値観において判断される(「レファレンス・ポイント」)。ある一定の状況下においては、その判断基準からマイナスおよびプラスの価値評価に分けられ、効率曲線は直線であるが、個人の効用曲線はマイナスの場合、獲得に対して弾力的で、プラスの場合は損失に対して弾力的である。その為、ある組織の中で、合理的プロセスに従い効率性と正当性の不一致が生じる可能性がある。

<タイプ2>の不条理を説明すると、ある戦術Aから別の戦術Bに移行する際に、今まで戦術Aに対して投資した時間や労力などが埋没費用として計上され、戦術Bの方が効率的であるにも係らず、移行の際に発生する取引コストによって、個別的効率性が重視され、全体最適が実行されない状況を指す。

そうして、組織が生み出す不条理によって、誤った行動をとらざるを得ない状況下の中で組織は個人の「命令違反」によって進化・成長していくという仮説を述べている。

利用している経済学理論は、「プロスペクト理論」と「取引コスト理論」であるが、それぞれの理論は限定的ではあるものの、コンパクトにまとめられており、もう少し説明を足しても良いぐらいではないかと思う。

なにわともあれ、もう少し戦争の歴史について学ぶべき事象が日本人にはもっとあるような気にさせてくれた本であった。
著者の菊澤研宗さん曰く
なぜ上司とは、かくも理不尽なものなのか (扶桑社新書)
新書『命令違反が組織を伸ばす』の現代企業版です。 こちらの方がやさしく書いてあるので、関心のある人はぜひ買ってよんで見てください。その後で、『命令違反』を読むと、分かりやすいかもしれません。 (★★★★★)
とのことです。

同じ系統の本を以下に示しておきます。
・組織の不条理―なぜ企業は日本陸軍の轍を踏みつづけるのか
・失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

▼目次
序章 人間は限定合理的な存在である
第1部 二つの組織の不条理
 第1章 <タイプ1>の不条理—インパール作戦での牟田口廉也
  (1)インパール作戦
  (2)プロスペクト理論
  (3)心のバイアスが生み出す組織の不条理
 第2章 <タイプ2>の組織の不条理—ガダルカナル戦での白兵突撃戦術
  (1)ガダルカナル戦
  (2)取引コスト理論
  (3)取引コストが生み出す組織の不条理
 第3章 命令違反のすすめ
第2部 <タイプ1>の不条理を打破する命令違反
 第4章 ペリリュー島での中川州男の良い命令違反
  (1)中川州男
  (2)ペリリュー島の戦闘
  (3)中川州男の行動原理
 第5章 ノモンハン事件での辻政信の悪い命令違反
  (1)辻政信
  (2)ノモンハン事件
  (3)辻政信の行動原理
 第6章 良い命令違反と悪い命令違反1
  (1)悪い命令違反
  (2)良い命令違反
  (3)<タイプ1>の不条理の克服
第3部 <タイプ2>の不条理を打破する命令違反
 第7章 ミッドウェー海戦での山口多聞の良い命令違反
  (1)山口多聞
  (2)ミッドウェー海戦
  (3)山口多聞をめぐる一般的評価
 第8章 レイテ海戦での栗田健男の悪い命令違反
  (1)栗田健男
  (2)レイテ海戦
  (3)栗田健男をめぐる一般的評価
 第9章 良い命令違反と悪い命令違反2
  (1)契約をめぐる法と経済学アプローチ
  (2)損害賠償責任制度の比較制度分析
  (3)<タイプ2>の不条理の克服
結章 命令違反のマネージメント


著者 菊澤研宗(著者プロフィール