2008/07/09

[輪読]スチュアート・カウフマン『自己組織化と進化の理論』

自己組織化と進化の論理―宇宙を貫く複雑系の法則 (ちくま学芸文庫 (カ27-1))
スチュアート・カウフマン 森 弘之 五味 壮平 藤原 進
筑摩書房
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 まず、感想と本書からの発展を考えた場合の自分なりの意見。

 むりやり経営の話題に本書の主張を連結させるとすれば、恒常性を維持しようとする組織内においては、ある一定の複雑性が必要であり、それは人間の多様性という性質によって実現できると考えることができる。ある程度の多様性が組織内における自己組織化を促進させ、新しい価値や創造をうみだす源泉となるという仮説も成り立つだろう。そして、自己複製に伴う自己触媒機能が最も重要であることが大変示唆に富んでいる。なぜならば、触媒作用こそが全体の形体を特徴づけるからである。組織内のコミュニケーションの複雑性を維持することも不可欠であるが、これらは普段交流の内部署を超えた交流機会を設けるなど、組織運営的な部分に係ってくる。しかし、触媒作用はそのような交流から最終的にどのような結果物を生み出すかに重要な要素となってくると同時に、次なる相互反応の経路決定を行うことになる。触媒作用を担うアクターとして、人や企業理念・CIなどがあるだろうが、それらがどのように社員間のコミュニケーションに作用するかは本書と同じくして明らかになっていない。
 筆者の考えは筆者自身も言っている通り異端である。その点を考慮しても、筆者の考えは示唆に富んでいる。2章等は現時点での生物学の研究をレビューしたものとなっているが、前提知識がなく読み進めるのが困難だった。生物学の歩みに関しては福岡 伸一の「生物と無生物のあいだ」が平易な文章でうまくまとめているので参考になる。この本の中で、なぜ生物がそれらを構成する細胞に比べてこれまで大きくなったのかという質問を提示している。各細胞内で生じるエラーが全体的に深刻な影響を及ぼさないようにする為に、複雑な細胞構造をとり、一つの細胞のエラーを本書の中でいう非平衡系の流れの中でエラー処理する為であると論じている点は、一企業がなぜコングロマリッド化するのか、そして企業としても大人数の社員を抱えた企業になって行くのかという点で新しい論点を与えるものであると考えれば面白くなってくる。


【要約】
 本章は、この自然界で秩序を形成する生物や生態系・経済系等の現象を、自己組織化の形成過程とその後に発生する自然淘汰による最適化形成過程によるものとして、複雑系による秩序形成の一般的特徴を大きな法則性のもとに理解しようとする試みを提示している。
 筆者の主張によれば、生物は分子のある一定の複雑性から創発的に生まれてきたものであるとする。各分子が化学反応ネットワークを構築することで、膨大な反応ネットワークから一定のクラスターが形成され、それらが自己複製と自己触媒、自己変異を繰り返す細胞として立ち現れる「無償の秩序」を生み出す。そこに自然淘汰が加わることで最適化の過程を歩み、生物は進化の過程を進む。
 まず著者は、ダーウィンのランダムな突然変異と自然淘汰の選別による進化過程の説明を批判し、自然界の秩序の多くは自発的に形成された自然法則に基づくものであり、その後自然淘汰がその形を整え、洗練させると述べる。
 ボルツマンらの熱力学第二法則は、環境との間にエネルギー・質量のやりとりがない閉鎖系では無秩序を測る為の度合いであるエントロピーが不可避的に増大し、平衡状態に達した時にエントロピーは最大となる法則性である。そして、ボルツマンは平衡系においてエントロピーが最大となるのは、システムが可能な全ての状態をランダムに巡回する統計的傾向をもつ為とするいわゆる、エルゴード仮定を議論する。しかし、秩序は以下の2つの形をもって現れてくる。1つ目は、低エネルギー化のもとで秩序維持可能な平衡状態と構造を維持するため質量・エネルギーが必要な状態、つまり非平衡状態の2つに分別される。非平衡状態は物質とエネルギーが継続的に散逸することによって維持される「散逸状態」として認識され、自由生活を営む生物すべては非平衡状態にあり、その生物たちが形成する生物圏も非平衡状態である。その一方で、ほとんどの生命にとって平衡状態の秩序とはその生命の死を意味する。
 また著者はこれまでの還元主義にみられるような構造の詳細な理解は、全体の理解において必ずしも必要な要素ではないことを強調する。なぜならば、量子力学の非決定性とカオス理論の初期条件の軽微な変化が最終的な結果に及ぼす多大な影響力、最後に計算理論における非平衡状態のアルゴリズム理解による理解とその実装不可能性という3つの困難が詳細理解の到達不可能性を示唆する。その上で、現象の一般的形を予測し、説明可能な法則を打ち立てることは可能であると考える。例えば、水の結晶化はその分子すべての相転移の詳細がわからなくてもその現象の帰結である結晶化を予測することは可能であるし、その特徴を説明することもできるのである。本書の目指すべきところはまさに上記の様な部分にあると言える。
 カンブリヤ紀における種の大爆発や技術革新による大きな変化の後に発生する多様な変形版と後の最適化に向けた詳細な改良という現象が、自己組織化から自然淘汰という秩序形成おける一般的特徴を示している。全ての秩序形成は創発的現象の中に個々の主体間の共進化により全体としての方向性を描いていくが、個体は外的環境への適応という目的の為に変化を迎えるが、その個体の競争者にとっては適応した個体への対応として同じ様な変化をする必要性が生じる。これによって全体的な変化の方向性が決定付けられる。
 著者は本書の中で、生態系や経済系、生物の内部にある多細胞の相互関係性の一般的性質について横断的に解決する為の作業仮説として「生命は多くの場合、カオスと秩序の間で平衡を保たれた状況に向かって進化する」という可能性を示唆するが、生命が「カオスの縁」つまり、相転移点に存在する理由は、成長に必要な柔軟性を維持しつつ秩序付けられた構造を維持しなければならない為である。(秩序可能な限界点と超えると構造をもたないものとなってしまうし、長い間硬直した秩序系に留まると成長に必要な連鎖・変化に支障をきたすことになる。)
 著者は、DNAやRNAなどの遺伝子研究が目指す固定的な鋳型の自己複製形式ではなく、分子と分子の相互反応のネットワークがある臨界点に達する地点で、自己触媒作用をもった分子ネットワークができ、大きな巨大クラスターとしての非平衡系としての生命体が生まれてくると主張する。「自己組織化臨界現象」にみられるような同質の砂粒が大小異なる雪崩を引き起こした結果、雪崩の大きさの分布はベキ乗則の関係になる。生命の誕生においても分子の複雑性がある一定の限界点を超える必要性があり、その相転移点がカオスの縁である。自由活動を行う最も単純な生物「プロイロモナ」の遺伝子が数百から約1000と見積もられている。生命が全体からの創発的発生しているという仮説が、なぜその複雑性以下の生命体は存在しないのかを説明する一つの手段となる。