2008/05/16

ノバート・ウィーナー「人間機械論」1940、みすず書房

 サイバネティックスの創設者ノバート・ウィーナーの著作『人間機械論(原題:The humanistic use of the Human)』を読んだ。サイバネティックスは今日言われるような「サイバー空間」の語源だったり、アンドロイドや人工知能の分野に大きな影響を与えた学問だ。
 ウィーナーがサイバネティックスについて書いた著作として『サイバネティックス』があるが、こちらは数式の証明などが著作の中で盛り込まれており、難解であると評判だ。その代わりに今回の著作の方が、叙述を中心とした数式を用いない書籍であるため、数学や物理学などから遠ざかっていた自分にとっては若干わかりやすい本だった。
 以下は、自分の要約を記述します。

人間機械論 第2版 新装版―人間の人間的な利用
ノーバート・ウィーナー
みすず書房
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【要約】
 本書で描かれるサイバネティックスとは確率論的なコミュニケーション理論である。20世紀以降、科学の命題は”圧倒的な確率でおこる出来事は何なのか”を求めるものに変化した。それ以前の厳密な法則性に基づいた科学における偶然性への対処することが確率論的な要素を取り入れる利点の一つであった。そして、ここでのコミュニケーション理論とはあるコミュニケーションを成立させる対象とその他外部環境を想定した場合、ある対象は外部環境からの入力と出力を制御装置でコントロールし外部へ適応していく。コミュニケーションの適応段階においては動物も機械も人間も基盤の部分では変わりないものとして取り扱う。
 コミュニケーションが情報の交換にあるとすれば、情報は対象が外界に対して自己調節及び調節行動によって外界に影響を及ぼしていく為に外部と交換されるものであると論じる。生物や機械や組織などは局所的な反エントロピー過程だと本書では論じられる。エントロピー(熱力学の第二法則)という「ある状態(環境)にある場合、最終的な結果として当然行き着く状態へ向かうこと」に対して抵抗すること、つまり、生物であればいずれか死に至る存在でありながら、あらゆる手段を用いて自らの健康を維持しようとする行動、つまりある限定された範囲内で恒常性を維持しようとする行動が反エントロピー的行為である。
 反エントロピー的行動を行っていく為に必要であるのが、対象の行動が制御機構に対して何らかの影響を及ぼすフィードバック機構を持っていることである。つまり、インプットへの適応だけではなく、アウトプットから不確実な未来に適応していく為に振る舞いを変化させていくことがフィードバックであり、それらは過去の記憶機構との整合性を確率論的に推測する機構を備えた学習機構である。
 そして、最も大事な点が、制御機構の目的・目標という点である。著者はダーウィンの進化論とラマルクの理論を比較した上で、ダーウィンが指摘した非合目的性の機構の中に生じる合目的性という自然淘汰過程に存在する種の進化過程が目的なき合目的な状態の存在を指摘する。これは、長期的にみれば自然の安定的状態へ向かう環境の中で、短期的に見た場合に生物という反エントロピー的行動をおこなう対象が存在しうることをより明確に説明した上で、その行動へ至らしめる目的・目標が何であるのかを考える必要性を主張している。つまり、"know how"より"know what"を論じる段階に科学も来たという事実である。

【感想】
 本書の中で大変難しい概念だったのが、無秩序と組織性という二項対立状態の緊張関係が自然と生物・機械・組織
にはあるという指摘だった。エントロピーに表されているように自然は当然そうなるべき状態に向かい状態を変化させていくが、生物や機械はその状態変化にたいして局所的に対抗することで自分の状態(恒常状態)を維持しようとする。本書にとっての
無秩序化は自然にとってあるべき姿への収束、つまり秩序形成過程への進行として安定的な状態へ向かうこととして考えることが出来る。しかし、本書では無秩序化が生物や機械などの局所的安定状態を崩す要因として捉えられている。よって、自然から捉えた安定化は、人間にとっての不安定化と同意であると言えるし、本書の中では生物中心主義の視点から捉えられている為、人間にとっての不安定化という考え方ととっていた。サブゼミ時にこの疑問が解けたので大変理解に助かった。
 もう一つの疑問は、記憶装置が制御装置に組込まれているか否かであるが、これはシステムをどの程度の粒度で俯瞰するかによって、機能分離して考えべきか、同一機構して考えるべきかが決まる為、やはりシステムモデリングを担当する作者の主観的な部分によるのであろうが、ウィーナーの考えで言えば、制御と記憶機構は分離して考えるできであろう。なぜならば、全ての機構は一物一能の原則をたててシステムと構築した方がシステム自体の柔軟性が向上するからである。本書の中でも昆虫の脱皮や甲殻に覆われた非柔軟性と、人間の学習機関の長さを比較した上で、
サイバネティックスの立場からみれば、機械の構造も生物の構造も、その機械または生物から期待しうる性能を示す指標である。
と論じる。つまり、行動の固定性が人間は弱い。つまり、多様な外部環境に対して柔軟に対応していくことこそが人間の人間たるゆえんであると筆者は考える。その今回にあるのは学習というフィードバック機構に違いない。それによって人間は多様な対応を行うことが可能となっている。

【参考】

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◆ウィーナー自身について◆

参考URL:http://en.wikipedia.org/wiki/Norbert_Wiener

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◆要約◆
國領研先輩の要約(服部基宏)さん
http://www.jkokuryo.com/literature/bs/review/doctor2002/Wiener,%201950,%20Hattori.htm

國領研先輩の要約(坂井健太郎)さん
http://www.jkokuryo.com/class/sentan2004/Wiener/sakai.htm

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◆サイバネティクスとは?◆
Cybernetics,
"Control and communication in the Animal and the Machine" by N. Wiener
「生物が外界から情報を感覚器と通じて獲得し、大脳中枢で処理し、効果器、す
なわち手足の筋肉系の行動になって再び外界に働きかける過程は、機械のシステ
ムと同じ次元で議論できる。」とした。
参考URL:http://gc.sfc.keio.ac.jp/class/2005_14453/slides/05/4.html

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◆その他◆
http://books.google.com/books?hl=ja&lr=&id=LLASPR_zlAAC&oi=fnd&pg=PA7&dq=The+Human+Use+of+Human+Beings&ots=Cciwey17_o&sig=vQ_gcT4zeJK90kS9hskSODYGhg8